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2000年7月11日

電波受信地帯

わたしの母は現在精神科病棟に勤務している。だから毎日電波さんたちとおつきあいしているわけです。
本当に「電波が聞こえる」と言い張っている人なんてべつに珍しくもないが、一番多いのは、欲しいものを手に入れるまで仕事中の看護婦にしつこくまつわりつくようなタイプの患者らしい。(例えば、決まった時間にしか与えられないはずのジュースだのお菓子だのを手に入れるまで、そのことだけを繰り返し言い続けるとか)母なんか他の看護婦と違って本気で頭に来るタイプだから、


「まだジュースの時間じゃないって言ってるでしょ!○○くん、何歳なの!」
「・・・・・・30さい
「30歳にもなってどうしてダメって言われてるのがわからないのっ!」

 

と、いうような会話を毎回繰り返しているという。30歳にもなってとかそうゆう問題ではないと思うのだが。
でも考えてみればこういう人は精神病院に限らずどこにでも存在するんである。ストーカーなんてこれ系の最たるものだと言える。

 

「だから絶対つきあえないって言ってるでしょ!××くん、何歳なの!」
「・・・・・・30さい
「30歳にもなってどうしてキライだって言われてるのがわからないのっ!」

 

みたいな。
相手の拒否が理解できない、相手の気持ちをまったく想像することができない人間というのはほとんど基地外ではないのかと思うんだが、実際にはそういう人々は精神病棟の塀の外にも山ほど存在していて、一見まともに日常生活を送りながら、内実は壊れまくっている。しかし自分が壊れているなんて夢にも思っていないから、なぜ常に自分は欲しいもの(たいていは他人の尊敬や愛情)が手に入らないのかさっぱりわからなくて、不満でパンパンにテンパっている。
そういうのにたまたま捕まってしまったらもうお仕舞いである。今までの人生で積もりに積もった不満を一気に満たすための道具として消費し尽くすために、必死でしがみついてくるからだ。(つまりはそれがストーカー行為と言われるわけで)
それを思えば母の勤務先にいる類の人たちなんて、わかりやすい上、ジュースやお菓子しか求めないし、「愛が欲しい」とか無茶を言い出さないだけ人畜無害だ、なんてことを考えたりもする。
 
 

まあそれは別の話として。今回は聞いていてウケた患者の話を書こうと思っていたんだった。また話がそれるところだった。あぶないあぶない。
 
 

母いわく、「麻○にそっくりの患者」がいるという。
つまり、髪も伸ばし放題ヒゲも剃らない風呂にもほとんど入らない着替えも嫌がる、小太りでフケツ極まりないオッサンだ。
外観はもとより、言うことも酷似していて、


神は怒っている。ハルマゲドンは絶対にやってくる


などと言い張っているらしい。今どきそんな時代遅れの話はやめてもらいたいが、塀の外でもそんなこと言ってる奴らはまだまだいっぱいいるので、塀の中で一人もいないほうがおかしいってくらいのもんだ。
幻聴や幻覚も日常茶飯事。ある日母が病室に入っていくと、「よせっ!出て行け!!」とものすごい形相になって、ぶんぶん腕を振り回しながら母の背後に向かって悪態をつきまくったそうだ。どうやら何か見えているらしい。

 

とはいうものの、そんな程度のことにいちいち動揺していては精神科の看護婦はつとまらない。
ある日、ナースステーションに彼がふらりとやってきて、走り書きの手紙のようなものを何通か置くと、そそくさと去っていったという。
それをその場にいる看護婦みんなで読んでみたところ、半分以上は意味不明な言葉の羅列だったが、


で○は死ね
○ぶに生きる資格はない
で○は社会のゴミだ。ダニだ


という意味のことがえんえんと書き連ねてあった。
これを見た母はカンカンになって怒った。なぜなら彼女はダイエットが必要な体型の人だからである(婉曲表現)。
「これは私に対する挑戦だ!!」と確信した。
 


しかし頭に来ることに、母はその患者の担当になってしまったのである。食事に下剤でも入れたろかと思うぐらいむかついていたが彼女もプロだ。私情を抑えて毎日きちんと世話をしているうちに、彼は母に心を許したらしく、ある日、いかにも重大な秘密を打ち明けるという風にこっそり耳打ちしてきた。

 

近いうちに必ずハルマゲドンが起こって人類は滅亡するが、あんたは、生き残る7人の人間のうちに入っているから、心配しなくていい
 


心配しなくていいも何もないもんである。母は以前のことを根に持っていたので、思わずこう切り返した。
「あら、で○は生きる資格がないんじゃなかったの?」
しかし彼にはまったく通じた様子もない。得意そうに胸を張った。
「あんたは特別だ。(特別な○ぶだってことか?)俺がちゃんと頼んでおいてやったから(誰に?)、何も心配しなくていいんだ。(何もって何をだ?)」
 
 

というわけで母はめでたく、ハルマゲドンが起こっても生き残る7人のうちの特別なで○として認定されたわけだ。コネが効くらしいのでなにも心配ないそうである。(だから誰に!!


しかしいまだにその患者は、母が医師と一緒に朝の問診に行く度に、「先生、○ぶのことをどう思います? で○な人と一緒に働く気持ちは?」などとしつこく問いただし、医者を死ぬほど困惑させ、母は心でそいつをサンドバッグにしてはなんとか自分をなだめている毎日だそうだ。
というより、「わたしはそこまで言われなきゃならないほどので○じゃない!オマエにだけは言われたないわ!!」というのが率直な心境らしいんだけど。
 

 
 

医療関係者には患者の秘密を外部に漏らしてはならないという掟(守秘義務)がある。
だからこれもここだけの話なのであしからず。←今さら何を
なお、文中にで・・・、脂肪に不自由していないタイプの方について差別的表現がありましたことを深くお詫びいたします。



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投稿者 : ナツ at 2000/07/11 | カテゴリー : ◆眠れぬ夜の奇妙な話
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