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2003年6月 1日

無意識の悪意

数ヶ月前にこんなメールをもらって、サイトでとりあげたいなー、と思いつつ機会がなくて放置してしまっていたのだが、今回あらためて紹介することにした。
色々思うところはあったのでまとめてからにしようと思っていたんだけど、結局うまくまとまらないので、以下、やりとりをそのまま載せる。
メールくれた方には許可をいただいてあります。


はじめまして、アドレナリンショック楽しく拝見させていただいてます。
内容もですが文章自体にもすごく惹かれてしまいます。

ところでだいぶ前なんですが、
脳内物質の「ワイドショー的考察」を読んで救われました。
以前、当時付き合っていた彼氏との結婚の相談などしていた
信頼する職場の上司にレイプされそうになっていまい、
泣きながら家に帰ると、
姉に「信用するお前が悪い。今すぐその人に謝れ。」と言われ
震えながら姉の目の前で謝罪の電話をかけたんです。
相手は笑っていました。
なんで笑っていられるのか恐ろしくて、
隣で私を睨む姉の視線も恐ろしくて、
電話を切った後の満足そうな姉の顔・・・。
暫くは、なんと表現したらいいのか、
その時の映像が頭の中をすごいスピードで走り抜けて
目を開けていられないというか・・・。
姉には考えるから悪いんだと責められますし。
考えているつもりはないのですけど、
突然バッと映像が走るんです。
相手の笑った顔が写るんです。声が聞こえるんです。
人に言えることでもなく、
私は家の事情ということで仕事を辞めました。
今は職もまともになくアルバイト生活していますが。
自分が悪いのだと思いずっと過ごしてきました。
確かに「信頼している」という部分を
「気がある」と勘違いされていたのかもしれませんが、
自分が憎くて仕方なかったんです。
ありがとうございました。
今現在はその上司に似た人を見ると
寒気がして声が止まって立ちすくんでしまいますが、
映像は走らなくなりました。声も忘れてしまいました。
ここの文章を読んで本当に救われた気がします。

これを読んでいるうちに何か感情移入したのか腹が立ってきてしまい、勢いでこんな返信をした。


はじめまして。アドレナリンショックのナツです。
メールありがとうございました。


どういうものか、わたしは性犯罪や幼児虐待などを体験した女性から
メールをいただくことが今までに何度かありました。
アドバイスなどは何もできないのですが、これも何かの縁ですから、
メールの中で疑問に思ったことを質問させていただいていいでしょうか。
ご不快でしたら、無視してくださって結構です。


まずですね、わたしは、あなたの上司よりお姉さんに
激しい違和感と不快感を感じました。
ショックを受けて泣いている妹に、そういう仕打ちのできる姉がいるものでしょうか。
わたしには妹がいます。決して仲のいい姉妹ではありません。
べつに嫌いあっているというわけでもないのですが、
行動原理も思考パターンもまるで正反対なので、気が合わないのです。
たとえば、まったくの他人同士であったら、友だちにはならないだろうなあ、
と思うようなタイプです。

それでも、実の妹が泣いていれば、姉としてはとても心配になります。
ましてや、レイプ未遂などという重大なことが起こったと知れば、
まず考えることは、十中八九「その男をぶっ殺してやる」
ということだと思います。妹に非があるかないかなんてことを考えるのは
二の次です。
さらに理解できないのは、お姉さんが「相手に謝れ」と言ったこと。
被害者が加害者に謝罪するなんて話は聞いたことがありません。
ましてや加害者は会社の上司でしょう。完全なセクハラですよ。

あなたは混乱していて、ついその通りにしてしまったようですが、
冷静になったいま、お姉さんが言ったことは理不尽なことだとわかるはずです。
わたしには、あなたとお姉さんの間にどんな問題があるのか
知るよしもありませんが、「仲のいい姉妹ではないんだな」
ということだけはわかります。
以下は、完全なわたしの推測です。不愉快になったらごめんなさい。


あなたには当時、結婚を約束した彼もいて、それを相談できるような
信頼する男性(上司)まで存在し、幸せいっぱいでした。
それに対してお姉さんは、たぶん、結婚していないか、
彼氏もいない、あるいは異性問題がまったくうまくいっていない状態で、
何もかも持っているあなたにねたみと羨望を感じていました。
そんな土壌があったところに、あなたが「レイプされそうになった」
と泣きながら訴えてきました。
あなたは本当にショックで傷ついているだけなのに、お姉さんはこう思いました。

「この女は自分がレイプされるほど魅力的で、男を惑わす力があると
いうことを私に見せつけたいのだろうか。
これみよがしに私に訴えるところを見ると、そうとしか考えられない。
この子は"結婚してくれ"と本気で求婚する男にも恵まれ、今また力ずくでも
妹を欲しいと思っている男すら存在している。
この子は世界に欲され、肯定されている。
(それに比べて私にはそういう男は存在しない。私は世界に受け容れられていない)
それなのに被害者面して泣いている。いったい何が不満だというのか。
私を不愉快にさせたおまえこそが加害者なのだ。おまえの存在そのものが
私を傷つけるのだ」


異性に愛されること、異性から見て魅力的であることだけが女の存在価値である
と考えている女性には、こういう思考パターンを持つ人が多いです。
お姉さんは多分、こんなことを意識してはいないでしょう。自分が何に
不愉快になったり、傷ついたのかも、わかっていないと思います。

でも、不愉快にさせたのがあなただということだけはわかる。だからあなたに
「自分は男に気があるふりをしたり媚びたりするいやらしい女だ」
ということを認めさせたかった。
だから上司に謝罪させた。悪かったのは自分だと言わせたかった。
何もしないでただそこにいるだけで、男に愛されるあなたの存在が
我慢ならなかったから。
それに比べて自分が男に愛されないのは、男の気をひいたりしない
"気高い女"であるためだと思いたいから。
(レイプは男の愛でもなんでもない、ただの暴力なんですけどね。
"男に強く欲される"ことそのものに飢えているから、
こういうゆがんだ思考になってしまうんでしょう)


泣きながらふるえている妹であるあなたに、追い打ちをかけるような
支離滅裂な言動がどういう心理から来るものかトレースしてみました。
完全な推測ですが、こうでも考えないと、わたしには理解不能なので。
(これでも実のところよくわからない心理ですが。)

また、あなたが謝罪したとき、相手の男性が笑っていたのは、たぶん
「セクハラで訴えるような女ではないな。泣き寝入りしてくれるだろう」
ということを確信して、ホッとしたためだと思います。
あなたは二人がかりで二重・三重におとしめられ、傷つけられてしまいました。
そのときに「こんな仕打ちを受けるいわれはない」と闘えば良かったのですが、
心の支えになってくれるはずの家族にまで「おまえが悪い」と言われ、
罪悪感と混乱で、闘う気力すら奪われてしまった。
そういうことではないでしょうか。


で、わたしの疑問なんですが、お姉さんとあなたの関係性、
そして、結婚の約束をしていた彼とはどうなったのかな、ということです。
彼には、このことを相談したりはしなかったんでしょうか。
彼が本当にあなたを愛しているなら、決して
「おまえが悪いからそんなことになるんだ」とは言わなかったと思うのですが。
彼がその時に「その男をぶっ殺してやる。おまえは悪くない」
と言ってくれていたら、あなたはそんなに長くは苦しまなかったと思うのです。
でも、いまだにフラッシュバックがあるということは、
彼にも理解してはもらえなかったのかな、と・・・。
(フラッシュバックとは、過去の記憶が幻聴や幻覚となってよみがえることです。
考えてもいないのに突然目の前に現れます。犯罪の被害者には
よく現れる症状です。P.T.S.D.の一種ですね)


この話を、数人の友人にしてみました。
「レイプされそうになった妹に、こういうことをいう
姉の話を聞いたんだけど、どう思う?」という形で。
男女数人、異口同音に
「はあ????なんなのその姉ちゃん」
「信じられない」
「被害者は妹でしょう。どうして謝らなければならないの?」
という答えが返ってきました。
あなたは悪くありません。自信を持ってください。
また、こういっては何ですが、未だにトラウマに苦しんでいる妹に
「考えるから悪いんだ」と責める姉、というのも理解に苦しみます。


実の姉妹が自分に悪意を持っているなどと認めることは、苦しいことです。
(虐待の被害者である幼児も、親に虐められていると認めたくないために
しばしば親をかばいます)
ですが、あなたの場合、お姉さんの言うことが正しいと思っていると
立ち直るための障壁になることはわかりきっています。
少しお姉さんから距離を置いて、客観的に彼女と自分の関係を
見つめてみたらいいんじゃないかと思います。


この件について脳内物質の方で、できれば
いつか書かせていただきたいです。
こういう言い方をして申し訳ないのですが、お姉さんのような、
どこまでも「女」である思考パターンというのは大変興味深いのです。
不愉快ですが。


憶測で勝手なことを書き連ねました。腹が立ったら許してくださいね。
思ったことをそのまま書いてしまう質なので。
ただ、あなたが自責の念から解放されて、堂々と顔を上げて
生きていくことを祈っています。


それでは。長文乱文失礼いたしました。


このメールを書いてから即、こんな返信をもらった。


おはようございます。上司と姉のことでメールした者です。
メールのお返事いただいてすごく嬉しいです。
しかもこんなに朝早くに書いて下さって、申し訳ないというか。
昨日の夜、「アドレナリンショック」を覗いて、
日々雑記のところに「メールで感想くれる人ありがとう」というのをみかけたとき、
私の事ではないかもしれないけど私の事なのかな?
と、嬉しかったです。
ありがとうございます。(変な文章でごめんなさい。)

私は現在24歳で、姉は30歳です。
姉と私の仲なんですが、他人から見るととても仲が良いみたいです。
私に良く構うし、何故か私の行くところ行くところについてきます。
友達にも関わろうとしてきます。
「とても面倒見の良いお姉さんだ。」と。

小学生の頃までは、よく殴られていました。
言う事聞かないから、すぐ泣くから。そういう理由でした。
どこの兄弟姉妹でもよくある風景なんでしょうけど。
私が中学になると同時に姉は大学に行ったのでそれから4年間は空白なんですが。
姉が学業を終え、帰ってきてからは
殴るとかそういうことは一切なくなりました。
(私の方が背が高く大きくなってしまったからでしょうか)
でも言葉でよく嫌なことを言われるようになりました。
冗談っぽく言われればこっちも笑って返せるのですが
睨みつけて言われるので結構ショックなんです。
「この世に化粧があってよかったね。なかったら
あんた生きていけないじゃん。」ですとか、
「整形した方がいいよ。」ですとか、
「あんたの親友の○○ちゃん、あの子最低な子だね。」
ですとか、(これが一番ショックでした)
「性格が悪いから、考えた方がいい。」ですとか。
むっとすると「他人は言えないけど、家族だからこうやってアドバイスするんだ。」と。
うざいと思っても、これが姉なりの愛情表現なのかもしれない。

私はいつも姉を恐れていたんですね。
感情がワラワラ出てきてしまいました・・・。ごめんなさい・・・。

確かに当時、姉に彼氏はいませんでした。
「男なんて鬱陶しい。」というのが姉の口癖でしたから。
バリバリ働く人なので「男より仕事!の人なんだなぁ。」と思っていました。

上司は電話越しに笑いながら「今度はいつデートできるのかなぁ?」
と言っていました。
何て答えたか全然覚えていません・・・。会話を覚えていません・・・・。
(今は携帯の番号をかえたので、連絡はありません。)

ナツさんの推測通りなのかもしれないと思っている所です・・・。


彼氏には結局何も言えませんでした。
家族でも「私が悪い」と判断したのですから
彼にも何と言われるか分からないと怖かったんです・・・。
あの日から私が不安定というか、突然落ちこんだりしてしまい
彼を苛つかせるようになってしまいました。
本当の事を言ってしまえば、もっと怒らせるんじゃないかと思っていました。
間違っているんでしょうけど、私から別れると言いました。
まだまだ、今でもですが、子供だったんです。

今思えばハッキリと姉に反論し、上司に謝らず、
彼にも相談した方がよかったんでしょうね・・・。
一番後悔している事です。

フラッシュバックというのですか、あの早い映像は・・・。
今は大丈夫です。
ただ上司に似た人を見た時だけは笑い声を思い出してしまいます。
私は結構頑丈にできているようです。

脳内物質で書いてもらって結構です。
ナツさんの文章を読んだこと、メールを出したこと、返事がかえってきたことで
解放されていくようなそんな感覚なんです。
書いてもらうことで「自分は悪くない!」ってちゃんと思えるようになると思うんです。
自分は悪くないって知っているのに、こうはっきりしていないというか。

書いている間に、ドワーっと自分の中の矛盾や
姉に対して抱いていた恐怖だとか、
文章にうまくできないんですけど・・・。

本当にお返事書いてくださりありがとうございました。
顔を上げて堂々と・・・そうできるよう頑張ります!

失礼しました。

わたしはカウンセリングなどはできないし、分析すること、思ったことをそのまま書く能力しかないので、「トラウマのある人にこんなこと書いてもいいのかなー」と、実はけっこう悩みつつ返信した。
だが、彼女の方も文章として書いているうちに気持ちの整理ができたようだ。わたしにメールするというよりは、自分との対話ができたのかもしれない。

しかし、お姉さんの件についてはどうも推測がドンピシャだったようだ。
ああいうタイプの女性が身近にいないでもないので、その人を観察したり分析したりしていた経験からの推測だったのだけど。
「よく分からない心理だ」とは書いたけど、実際のところ、嫉妬心そのものについてはよくわかる。誰だって、自分が不幸な時に幸福そうな人を身近で見ていれば、うらやましいとかねたましいとかいう気持ちになることはあるからだ。
わからないのは、その自分の心理にまったく無自覚であるらしいところ。わたしなら誰かに嫉妬したら、「自分は今嫉妬している」ということにたいていの場合気がつくし、たとえ人には隠せても自分にうそはつけない。自分のネガティブな心理を見ないふりしようと思っても、結局はできない。


でも、それが可能な人種がいる。無自覚でなければ、あんな風に堂々と妹を責め立てたりはできない。

自分は今妹に嫉妬してこんな理不尽なことを言っている。これはとんでもない八つ当たりだ

と、ハッと気がついて自分が恥ずかしくなり、とてもではないがそんな行為を続けることはできなくなるのがふつうじゃないかなあ、と、こういう人を見るといつも心底不思議に思うのだ。


また、「妹の幸福と自分の不幸との間にはまったくなんの関係もない」ということに無自覚であるところもどうしようもない。

確かにこのお姉さんは当時何らかの理由で不幸だったのかもしれないが、妹に何かされて不幸だったわけじゃなし、自分が不幸なのは自分の責任である。誰かをおとしめて自分のふしあわせから目をそらす暇があったら、幸福になるように何か行動すればいいのだ。


―――――――――――――――――――――――――


山岸凉子の短編漫画に、「瑠璃(るり)の爪」という佳作がある。
主人公は、28歳の上杉絹子。彼女は実の姉を殺害して逮捕された。
ストーリーは映画「羅生門」のように、主人公の周囲の人々の証言でのみ進んでいく。物語の終わりまで、彼女自身の心理や殺害の動機は明らかにされず、まわりの人々の多種多様な証言から、絹子と姉の関係を推し量るしかない。


絹子の小・中・高校時代の同級生は、彼女のことを、目立たない存在感のない生徒だった、という。
逆に姉の敦子については、「しっかりものだが、離婚して出戻ってきてからは、再婚する気はないと言っていた」と近所の主婦が証言する。早くに家を出た兄がいるものの、父親に続いて母親が死んでから、お互い結婚もせず二人っきりで同じ家に暮らしていた。
二人は傍目には仲のいい姉妹であり、姉の敦子は自分の再婚より妹の結婚の方を気にしていたほど妹思いだった、という。

叔母が言う。だったら、と、絹子に見合いの話を持っていったら、内向的で自分の意思を表さない絹子に変わって敦子が見合い相手を調査し、その男が大金持ちの子息ではあるが、金遣いの荒い放蕩息子だということをつきとめた。
「いくら資産があってもそんな男のところへ大事な妹を嫁がせるわけにはいかない。私は亡くなった母から、絹子をくれぐれも頼む、と言われているのだから」
そういって断った、という話である。

その他、さまざまな証言から、この家族においては母親がいちばん末の娘である絹子を溺愛して育て、上の二人の子供は放置していたことが明らかになってくる。
絹子が大人になっても、「まだ早い」といって嫁がせようとはせず、彼女が社内恋愛で10歳年上のやもめとつきあっていたことを知った時は、会社に怒鳴り込むような異常な過保護ぶりの母だった。

兄の方は母親の偏愛に自覚的で、「絹子の顔も見たくない」と断言する。
一方、敦子の大学時代の友人は、彼女が結婚するときに、
「私は妹と違ってずーっと公立・国立を出て親にはお金をかけずに来たんだから、結婚式くらい派手にやってもらいたいわ」
という話を聞かされたことがあり、ふだんそんなことを言わない人だったので印象的だった、と証言する。


一体、この姉妹は本当に仲がよかったのか。
敦子の別れた夫の証言。

「仲・・・良さそうでしたよ。少なくとも表面上は。
 ただ、敦子のやつ、自分で意識しているかどうか分からないけど、絹子さんのこと、憎んでましたね。

 あ、いや誤解しないでください。そういうところもあったということですよ。あんまりみんなが妹思いだと言うから。
 もちろん、妹思いなのに違いはありませんよ。でも、いっそ自分のそういった部分に気づけばよかったのに・・・と思うんですよ。
 兄弟姉妹なんて多かれ少なかれ、そんな部分があるんじゃありませんか」


クライマックスで、とうとう殺人犯として手錠をかけられた絹子自身が語り出す。
自分はあの家を早く出たかったのだと。母親が死んでこれでやっと自由になれる、と思っていたのだと。

母親には溺愛されたが、それは彼女が上の二人の兄姉とちがって、意志の表明ができないからで、そんな絹子をこそ母は愛玩物を愛するように愛した。
勤め先で10歳年上の恋人ができ、母が会社に怒鳴り込んできてめちゃくちゃになった時は、心底母親を憎んだ。

「でも母のは、エゴとはいえあたしを手放したくない一心から出たことなんですもの。あれでも愛情のひとつだ、と考えて、なんとか自分をなだめたわ。
 でも25を過ぎた頃から、本当にこの家から、母から逃れたくて・・・。
 誰でもよかった、ここから私を引っ張り出してくれる人がいれば」

やっと母親が亡くなってホッとした自分の冷たさをうとましく思いながら、自由になれると思っていたのもつかの間。
今度は、出戻ってきた姉の敦子が「死んだ母に頼まれているのだから」と、母の代わりをはじめた。

「でもあたしは知っているもの。
 姉さんも知らないことをあたしは知っているもの。
 同じことをやっても、姉さんのは・・・母とは違う。
 あたしのためを思ってやっているのだと信じている、姉の善意いっぱいの笑顔を見るのが、あたし・・・・」

姉には内緒で喫茶店のマスターとつきあい始めた時、敦子は敏感にそれを察知して、相手の男を前と同じように調査した。
結果は、「あんたは、だまされている」・・・彼は結婚しているし、愛人も他に何人かいる、という。
絹子は、本当は自分でもそれが分かっていた。だまされていてもよかった。教えてなんかほしくなかった。そう語る。

「これ以上、姉さんにあたしの幸せをつぶして歩くのは、やめてほしい」。
そう追いつめられて、敦子を刺し殺したのだと。


「あたしが自分で行動して成功したことは、今回のことだけ。
 こんな幼児的な行動しかとれなかった、滑稽なあたし・・・。
 でもいいの。あたし、満足してる。
 だって姉さんの、あたしを決して幸福にはしまいとする無意識の悪意を、
 どんなに努力しても自分の中で善意に変えることができなかったんですもの。
 無意識の悪意をね・・・」

瑠璃の爪 山岸 凉子 角川書店・あすかコミックスより引用)


―――――――――――――――――――――――――


あんまり、今回のメールと内容が重なるので、思わず詳細にあらすじを紹介してしまった。
この漫画は傑作なので是非買って読んでほしい。ネタバレしてしまったが、プロットの巧さはあいかわらず絶品。山岸凉子は、人間の悪意を見抜いて表現することにかけては天才的である。ホラーなどより、人間心理の方がずっと恐ろしい、と毎回思わされる。


嫉妬心や、幸せな人を不幸にしたい、傷つけたい、と思うドス黒い部分は、誰にだって潜在している。
でも、そういうことのいっさいに無自覚なまま生きている人間は、生きているとはいえない。



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投稿者 : ナツ at 2003/06/01 | カテゴリー : 心理
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Tracked on 2005年12月27日 05:19